■差別■
警察VS暴力団。今でこそ対立しているが、両者は協力しあい、治安を守ってきた面もある。しかし、日本が高度成長するに従い、警察は一転、暴力団を壊滅する方向に政策を転換。それに伴い暴力団は経済活動に進出した。その対応策の象徴が暴対法だろう。
伊東氏はこうした背景を踏まえ、「(国が指定暴力団とすることで)暴力団という言葉、存在自体が全面的に否定されることになった。マイナスの記号としての存在ということが約束になっている」と指摘する。
その結果、暴力団という存在自体が一人歩きし、暴力団が抱える「差別」という本質的な問題が見えなくなってしまった。伊東、猪野両氏によると、その差別とは
・暴力団組員の中には被差別部落や在日朝鮮、韓国人らが差別の対象となっており、その人たちを受け入れてくれる基盤が少ない
・罪を犯して出所しても受け入れにくい社会など
伊東氏は「山口組3代目の田岡組長の話として、そうした人たちの受け入れの一つを暴力団が担っている」などと述べ、「暴対法という法を温存するだけで、こうした問題は解決できない。国権のあり方に疑問を感じる」。猪野氏も「暴対法は世界で類を見ない差別法。暴力団の存在を否定する前になぜ、ヤクザが生まれたかなど、根源的なところを踏まえた上で暴力団対策を考えなければならない」と国の対応を批判した。

■弊害■
暴対法施行から今年で16年。暴力団関係者は施行当時とほぼ同じの約8万人で変化はない。むしろ、暴力団に対する締め付けで、組抜けした関係者が事件を起こすケースが増える一方で、外国人マフィアの介入を招いた。その典型が石原都政が対策を推し進めた東京・新宿の歌舞伎町だろう。
検挙率が低下、治安は悪化の一途をたどっており、暴対法に効力があるのか疑わしい。どうすればいいのか。南出弁護士は「暴対法の改正は本末転倒。警察は内部の評価が低い指定暴力団以外の犯罪には興味を示さない。これでは治安は保てない。団体を誇示した暴力行為に対応できる暴処法であれば指定暴力団かどうか関係なく摘発できるので、これを改正してあたるのが筋じゃないか」
しかし、こうした声が既存の報道機関や国会議員には届かない。暴対法成立、改正の課程で国会は衆参ともわずかな審議の上、全会一致で賛成している。鈴木衆院議員は議員の対応をこう解説した。
「反対すれば、選挙などで弱みを握られる、狙われるじゃないかという恐れがあり、警察の法案に引いているということもあるでしょう。ただ、政治家の勉強不足が大きい。自民党の場合、所属する部会や委員会の議論であれば勉強もしているが、それ以外だと関心も薄く、警察が出した暴対法なら、いいもんだという性善説になってしまう」。その上で「国会議員としてこれからは、警察、検察が国家権力を背景にして、恣意的、意図的に、一つの目的に向かって出す法案に対し、チェックが働く仕組みを考えていきたい」と述べた。ただ、今回も全会一致で成立する可能性は高いという。
佐藤優氏は「暴力組織に対抗するためには彼らが思いもつかないことでやるしかない。例えば、暴対法に賛成です。その代わり、警察、検察、自衛隊をして暴力団にして、暴力団のヒエラルキーをつくってくださいと。さて相手はどうでますか。そのくらいのことを考えてない阻止できないのでは」と提言した。

臭いものに蓋さえすれば、何もなかったように思いがちで、その裏に隠されている本質に目を向けないという性向。暴対法をめぐる議論はまさに日本社会を反映したものだと率直に思った。
(ジャーナリスト 佐藤 一)